赤ちゃんが生まれる前に、何か障害があるかどうか、出生前に検査できる技術が誕生し、倫理的な面からその是非について意見が分かれています。
ハーバード大学のマイケル・サンデル教授は、「遺伝子科学は急速に発展しているが、私たちの倫理的な議論は追いついていない」という発言をしています。
NHK Eテレ「ハートネットTV」では、「シリーズ 選ばれる命」として4回のシリーズに分けて、出生前検査についてアプローチしていきます。
昨日の放送は、「 第1回 問われる出生前検査」。
イギリスの福祉制度を紹介しながら、出生前検査の意義を考えていくような内容でした。
イギリスでは、小学校の普通クラスに障害児の受け入れを義務付けています。
ダウン症のエマソンくんの例をとって説明していましたが、エマソンくんは保育園の頃から地域の子供たちと同じ環境で過ごしてきました。
クラスには、担任の他に障害児をサポートする教師を配置し、他の子供と一緒に学べる体制になっています。
補助教員の話では、「エマソンくんをたくさんの子供たちが助けてしまいがちだけど、過剰な手助けは彼の自立を妨げてしまうので、授業の最初に、彼が一人で集中して学習できるように配慮している。たとえ学習が遅れていたとしても、意図的に手助けする必要なない」とのことでした。
エマソンくんの通う学校では、専門家や当事者団体の人と積極的に招き入れ、勉強会を定期的に行っているそうです。
それぞれの障害ごとに、具体的な授業の進め方を教わります。
勉強会に参加するのは教師だけでなく、障害児の親も加わることで、障害児一人ひとりのきめ細かな対応につなげていくのだそうす。
こうした手厚い支援を行うためには、多額の費用が必要です。
年々増え続けていく社会保障費は、イギリスで大きな問題となっていました。
その対策として、出生前検査を積極的に導入することにしたのです。
希望する妊婦は、検査を無料で受けられます。
検査の結果を受けて、中絶を選択する人は9割を超えているそうです。
その一方で、胎児に障害があるとわかっても、出産する決断をした人には保障を手厚くしています。
障害のある子への支援は、学校を卒業した後も続けられるそうです。
ダウン症のジョーさん(30歳)を例にして説明していましたが、ジョーさんは7年前からスーパーマーケットで週5日勤務しています。
仕事がうまくいかなかったとき、支援団体の人が上司との間に入り、問題を解改善してくれたそうです。
上司の人は、たまに混乱することがあっても、ジョーさんが精神的に安定できるようにサポートしていると話していました。
また、ジョーさんは1LDKのアパートで一人暮らしをしていて、家賃は国の補助金で払われています。
掃除、洗濯、炊事など、身の回りのことはすべてジョーさん一人がこなしています。
最初は何もできなかったそうですが、専門のヘルパーが訪問し、教えてくれたそうです。
今でも自立支援員が週に4回訪問し、苦手なことを克服するために支援しているそうです。
障害者に手厚い保障をしているイギリスですが、お金をかければよい支援を受けられるのは当然のことで、障害のある子の多くが普通クラスで過ごせているのは、担任の他に、専門的に支援できる人がいるからだと思います。
今回の放送を見て、そこのところを誤解する人がいそうだな、と思いました。
外国で障害のある子を普通クラスで学ばせているからといって、支援が整わないのに、それを求めようとする人が出てきそうな気がします。
支援する専門の人がクラスに配属されなければ、担任や他の子供たちに負担がいきます。
イギリスでインクルーシブ教育がうまくいっているのは、そこにお金をかけ、補助教員にも専門的な教育の機会が与えられているからです。
また、ダウン症の例だけを挙げていましたが、自閉症の子には、外部の刺激が多いと気が散りやすく、落ち着かない子もいます。